LIFE-HEART MESSAGE
『歌人』の美学
Life-Heart Message.  2008.03.17.


わたしたちの世界はさまざまな色に満ちている。
空の青さ、夕日の赤さ、木々の緑といった自然の色、さらに、衣服の色、信号の色、
ネオンサインの色といった人工の色など実にさまざまな色に満ちている。
そしてわたしたちは、自然物にせよ人工物にせよ、それらのものが固有の色をもっている
ことに疑いをはさむことはまずないであろう。

ところが現代の色彩学や心理学は必ずしもこのような「常識」を支持しているわけではない。
色彩科学の書物として定評のあるH・キュッツバースは、色彩とは観察者の感覚器官に
生じる「感覚」である、と言った。

ニュートンの有名な言葉に『光線には色はない』と、彼によると、
それらは正式には「赤を作る」光線、「青を作る」光線と言う。
この見方の基礎になっているのは近代的自然観であった。
色彩の存在を『救出』しようとした哲学者E・フッサールによれば「世界」、少なくとも、
「生活世界」のなかには色彩が存在している、と言って「射映」と「奥行」と言う概念を使って
色彩の現象を取り上げている。

有名なゲーテの『色彩論』は色彩現象を生理的、物理的、そして化学的現象の三種類に分類し、
それぞれの特徴を具体例を駆使して示している。
ゲーテは色を生じさせる物理的条件の記述と統制に関してはニュートンにとても
およばなかったが、色を見る際の主体的条件については、きわめてすぐれた洞察を
示している。

特に、明順応、暗順応、色順応、残像、明るさ対比、色と感情などについては自分自身の体験を
通して、すぐれた直感的な観察を行なっている。

このゲーテの「色彩論」はニュートンの色の研究とは全く違った面で、今日の色の科学の
大事な土台となっている。

いわば、ニュートンとゲーテは相補い合って、今日の色彩学の礎を作ってくれた恩人といえる。

絵画を制作するうえで、決定的に重要な契機となった体験をカンデイスキーは色彩で
あったという。

自伝的「回想」のなかで、夕暮れに沈んでいくモスクワの姿を印象深く描写している。
『太陽はすでに低く、太陽が一日を通じて捜し求め、一日中切望していた最高に充実した力を
その手にしている。が、この光景は、長くは続かぬ。あと数分で落ちんとする。
そしてその陽射しは緊張のあまり紅に染まり、次第にその濃さが増してゆく、
はじめは寒色、やがてしだいに暖色系に変わりつつ、太陽は全モスクワを一色に溶かしてしまう。
まるで、内面全体、魂のすみずみまで震撼させる、あの狂おしいチューバの響きのようだ。

否、この赤一色が最も美しい時間ではないのだ!それはそれぞれの色彩がその生命の
かぎり輝き、全モスクワを大オーケストラの力強いフォルテッシモのように響かせ、
支配するシンフォニーの終止和音にすぎぬ。
バラ色、ライラック、黄色、白、青、浅緑の、真紅の家々や教会・・・それぞれが自分達の歌を・・・
風にざわめく緑の芝生、低いバスでつぶやく樹々、あるいは千々の声で歌う白雪、
葉の落ちた樹々の枝のアグレット、それに無骨で無口なクレムリンの赤い壁の環。
・・・・・このときを色彩で描くことこそ、芸術家にとって至難の、だが至上の幸福である。』
・・・・・・
・・・・・何と美しい「生きる」という色彩体験であろうか!!・・・・・


未来創庵 一色 宏