LIFE-HEART MESSAGE
『音楽』の美学
Life-Heart Message 2008.01.21.


 古代の人間にとって、音楽とは魔術であった。
そして、魔術は、すべての事柄を解決する特効薬でもあった。
すなわち、この音楽という魔術を使えば、病気を治すこともできるし、生命の誕生から
死に至るすべての儀式を取り仕切るものであった。
人間の生活のすべてを支配した『音楽』は、社会の権威でもあり『幸せ』でもあったのである。

歌の目的は、神への祈り、自然との対話、悪霊を追い払う、戦闘意欲を鼓舞する、自己の心情を吐露する。
病気を治す、存在の誇示、愛の告白・・・神への祈り(賛美歌)、心の吐露・愛の告白(イタリア・オペラ)
戦闘意欲は(マーチ)に、病気を治す(音楽療法)に、存在の誇示は(カラオケ)なのかもしれない。

音楽文化人類学者クルト・ザックスによれば、人間は幸せな状況だから歌うだけではなく、
ある種、絶望の淵にあるような状況の方が『ウタを歌いたくなる』。
たとえば、アメリカの黒人奴隷達が歌う、黒人霊歌やブルースなど、何としてでも未来へ
明るい希望を捨てまいとする願望がそうさせたのではなかろうか。

詩人ハイネは言った。『音楽というものは、不思議なものだ。
それはほとんど、奇跡と言ってもいいだろう。なぜなら、音楽は、思考と現象のあいだ。
そして、精神と事物のあいだにあって、双方を漠然と仲介する存在だからだ。
音楽とは何なのか、結局私たちにはわからないのだ。』と・・・

『音楽を聴くとき、危険を感じることなどない。傷つくこともなければ、敵もいない。
その時わたしは時間を越え、遠い過去とも、そして現在ともつながっているのだ。』
といったのは、ヘンリー・デビット・ソローである。

有名な『ボレロ』を作曲したラヴェルは、晩年、脳の病気で廃人同然の生活を送っていた。
失語症、読み書きの能力を失い、ピアノは片手でしか弾くことができなかった。
しかし、暗譜した曲は歌ったり演奏することはできた。

ベートーヴェンも、晩年聴力を失っていたが、心の中に『音楽』は最後まで失ってはいなかった。

「ラヴェルの記憶の中に、ベートーヴェンの記憶の中に音楽は響きわたっていた」のである。
その記憶も、その人が経験的に蓄積した記憶だけでなく、遺伝情報や環境情報として
先祖から受け継いだものまで含まれ、また地球上で生活してきた『人類としての記憶』
も含まれているはずであろう。

五感を通して刺激や感動を人間は得るのは、その先にある人間としての『幸福感』を
得ようとするためである。
人間が創造したものはその現実的な使い方が何であれそのそもそもの目的はすべて人間が
自分自身を幸福に導くためにあったとも言える。

果てのある限定された『生』という時間と空間の中に、音楽は、恐れの「異空間」にも喜びの
「異空間」へも自由に行き来することのできるスイッチかもしれない。
『歌うことは、愛し、認めること。飛び立ち舞い上がり、聴く人の心のなかにスッと入りこむこと。

歌は語る、人生とは生きるためにあること、愛もそこにあること、何も約束などないということを、
でも、美もそこにあり、それを探し求め、見つけ出さなければならないということを。』・・・ジョーン・バエズ


未来創庵 一色 宏