LIFE-HEART MESSAGE
『恭敬』の美学
Life-Heart Message 2008.01.14.


 江戸後期の心学者、鎌田柳泓の『心学五則』に、

第一則『持敬(じけい)』持敬とは敬を持つという事にて、万事うかめず怠らず、
油断大敵という事を能(よく)知りて、朝夕恐れ慎むことなり。・・・

第二則『積仁(せきじん)』積仁とは仁を積むと書きて、常に慈善の心を抱きて人を
利益する事なり、かくのごとくつとめてその功を積むを積仁というなり、・・・

第三則『知命(ちめい)』知命とは天命を知ることなり。・・・

第四則『致知(ちち)』致知とは知る事を致(きわむ)という事にておよそ天下の理を知り
明(あきしむ)る事なり。
然るに天下の理を明(あきら)めんと欲せば、まず人心の体を究知(きわめしる)にあり。
人心の体を究知ればこの心即天理なり。・・・
是聖人の学、致知を以てはじめとする所以なり。・・・

第五則『長養』長養とは小児を養育して成長せしむるの義なり。・・・

とある。


 また、第二則の『積仁』について、『八則』を定めている。
『第一に怒りの心を断つべし。・・・
第二に誹謗の言を出すべからず。・・・
第三に驕慢の心を断つべし。・・・
第四に妾に財宝を費やすべからず。・・・
第五に人に接(まじわ)る時常に顔色を柔和にすべし。・・・
第六に言を謹んで妾に悪口などすべからず。・・・
第七に若(もし)家に害なき所の財宝あれば貧者または乞食などに施すべし。・・・
第八に物の命を惜しむべし。・・・』とある。

 第一の『怒りの心を断つべし』と戎めている。
ギリシャのことわざには『友情のつとめを果たすためには、何年もの塩を舐めねばならない』とある。
日本の家訓や遺訓には、『神仏を敬え』『持敬』が多くある。
世の中には、立派なもの、美しいもの、至高の存在に対して、敬う姿勢を決して忘れては
ならないことを教えている。

民芸研究家の柳 宗悦氏は、『一生拝み讃えるものを持つ者は仕合せであると言った。
それは己をひきしめ、清め、高め、そして悦びを与え、苦しみに耐える力を与えてくれる』
『併し拝むものを外に求めなくともよい。とりわけ大きなものを見なくてもよい。
小さな自然のなかにも、深々したものが見出されよう。
それにも増して、何か心のうちに犯すことの出来ぬものを見出すなら、それでよい。
驚きを抱くものは幸いである。
その驚きは、実は自らの心を離れてあるわけではない。
拝むものを持つのは、内に何か通じるものがあってのことであろう。・・・
この心を持つことに人間の真の幸福が宿ろう。』

まさに『拝む』祈りの一念は、一面的には、より偉大なもの、絶対的なものを意識し、
その実在に対して、静かに自他を顧み、謙虚に内省し、一層の研鑽と人間的向上を決意する
こともできるものであろう。

祈りを持って絶対的な実在に帰命する姿勢のなかに、実は自身の本然の発揮があり、
同時に他者への慈悲という生命の転換を可能ならしめる力が秘められているのではないだろうか。

哲人は言った。
『世界共通で最も美しい、人間図・・・それは“祈っている人間の姿”である』と・・・・・・


未来創庵 一色 宏