LIFE-HEART MESSAGE
『赤色』の美学
Life-Heart Message  2007.10.17.(4)


1587年2月8日、イングランドのフォザリンゲイ城の大広間には、ひとりの女王の
斬首を見物するために300人もの人々が集まっていた。
スコットランド女王メアリは親族であるエリザベス一世への謀反を企てたとして捕られ
広間へ連れてこられると、みな静まりかえった。

背が高く優雅なメアリは美人の誉れ高く、劇的な演出の才を持ち合わせていた。
尼僧の如く黒い繻子織の長いローブをまとい、二つのロザリオ(プロテスタントの
イギリスに取り戻したいと願っていたカトリック信仰の象徴)を腰から下げていた。

メアリ女王が死刑台の上にのぼってローブを脱いだとき、黒と白で覆ったその下に、
深紅のビロードのペチコートと深紅の繻子織の胴衣を身につけていた。
メアリはその衣装で覆面の死刑執行人たちの前に進みでたのである。
集まっていた人々にとって、メアリの色鮮やかな服はこれから訪れようとしている
血まみれの最後を予感させるだけではなかった。
テューダー朝イングランド、ひいては全ヨーロッパを通じて、赤は殉教と勇気、王家の
血の色だった。
反逆者とされ処刑に臨む者としては大胆不敵な選択である。

しかし、それを着て無言の抵抗を表わすメアリの行為は、断頭台の上で最後を迎えようとも
威厳に満ちたものであった。

赤という色の持つ意味は豊かである。
ユダヤ人の伝承では、赤は途方もない重要性と複雑さを備えた色で、ヘブライ語で
アダムとは“赤”を意味し人間を象徴するだけでなく、出エジプト記の“燃え尽きる
ことのない柴”に見られるように神性を表す。

古代ギリシア人やローマ人も赤を神聖な色とみなし、伝統的な結婚式や埋葬などの宗教儀式に
ふんだんに用いられた。
ギリシャの歴史家クセノフォンは好戦的なスパルタ人は、赤いマントは血痕を隠し、
不死身を思わせるため“戦闘に最もふさわしい”と考えていた。

大航海時代に新大陸で発見された“完璧な赤”コチニール染料は香辛料と並んで世界の
歴史を動かし、古代メキシコの民が大切に守り育てた文化遺産と呼ぶにふさわしい
コチニールは、ヨーロッパ列強各国の思惑に操られ、争いに巻き込まれて数奇な運命を
たどることになる。

ひとつの染料がこれほど濃密な歴史と文化を背負ったのは、赤は生命や力、武勲や富の象徴であり、
神聖かつ高貴な色として時の権力者達に珍重されたゆえであった。

今年創業60周年を迎えたレーシングカーで有名な「フェラーリ」、あの赤は血の赤である
と言われている。
一貫してF1に参戦しつづけ、チャンピオンになること14回、名門強豪チームの中で
最多であるが何人もの一流ドライバーが亡くなっている。

高貴な血の匂いと、技術や情熱が伴っている60年にわたる揺らぐことのない企業哲学が
あった。

日産のGT−R、ホンダのNSX、マツダのRX−7からは高貴な血の匂いは漂ってこない。
フェラーリの3,000人の社員のうち600人がF1に携わり、名実ともに「レースの
ための車をつくる企業」世界中のどこにもないメーカーであるからだ。

貫かれた企業哲学は「神話」となり、そん神話の一部を共有しようとして、フェラーリの
赤は美しい、愛の色、情熱、情念、献身、勇気、冒険性、革命の色、犠牲の血の色、
生命の色、太陽の色なのだ!!

未来創庵 一色 宏